「一箇所だけ髪の毛がごっそりなくなってしまっているけどどうして?」
「髪が抜けたのは何かの病気のせい?」
突然できてしまった10円玉サイズのはげに対して、上記のような不安を抱えてしまうのは当然のことです。
はげがなぜできたのかを理解できれば、対処しやすくなるのではないでしょうか。
そこで今回は10円はげができるメカニズムやできやすい人の特徴、治し方などについてお話しします。
ぜひ最後までお見通しください。
目次
10円はげの原因とは?
10円はげの正式な名称は円形脱毛症といい、脱毛の箇所が小さい初期の状態を1円はげ・5円はげと呼ぶこともあります。
程度の度合いには個人差があり、10円玉サイズでとどまるものや500円玉サイズにまで広がるもの、後頭部全体に広がるものや眉毛・まつ毛まで抜け落ちてしまうものなど多種多様。
主な原因には自己免疫疾患が挙げられますが、最近の研究では遺伝によっても引き起こされることが分かりました。
ここで、円形脱毛症の原因となる自己免疫疾患と遺伝についてお話しします。
自己免疫疾患
円形脱毛症の原因として最も知られている自己免疫疾患は、自らの体を守る免疫細胞であるT細胞が正常な細胞を異物と認識してしまうことによってダメージを与えてしまう病気。
この病気にかかると、T細胞が頭部の正常な毛母細胞や毛乳頭細胞、毛包幹細胞などを攻撃し死滅させることによって、一部の髪の毛がごっそりと抜け落ちてしまうのです。
自己免疫疾患が起きる要因の一つは胸骨の裏にある組織「胸腺(きょうせん)」が小さくなってしまうこと。そもそも、骨髄で作られたリンパ球は胸腺の働きによって正常なT細胞の役割を担うようになります。
しかし、胸腺の機能が低下することによって、正常な細胞に反応してしまうT細胞を生み出してしまうのです。
実際、東京大学日本医療研究開発機構の研究では、胸腺の線維芽細胞がT細胞の教育に必要な多くのタンパク質の生成をサポートしていることを示しています。
参考:線維芽細胞が自己免疫を防ぐ―T細胞を「教育」する新たなしくみを発見
円形脱毛症はストレスや栄養不足、ホルモンバランスなど様々な原因から胸腺の機能が低下することによって引き起こされている可能性があるのです。
遺伝
円形脱毛症は親から遺伝として引き継ぐことがあります。日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017 年版の記載によると、円形脱毛症の患者の内8.4%に家族内の発症があり、親等が近いほど発症率が高まる傾向にあるとされています。
また、最近では順天堂大学などによる研究によって円形脱毛症を引き起こす遺伝子が特定されました。
参考:Alopecia areata susceptibility variant in MHC region impacts expressions of genes contributing to hair keratinization and is involved in hair loss – eBioMedicine
このことにより、円形脱毛症を発症するメカニズムの解明や的確な診断、原因に応じた治療などの進展に期待が寄せられています。
10円はげは自然治癒する?
10円玉サイズのはげがひとつに止まる軽度の脱毛であれば、治療を要さず自然に治癒していくことが多くあります。しかし、脱毛が帯状に広がる蛇行型や頭部全体の髪の毛が抜け落ちる全頭型、頭髪に加え眉毛・まつ毛にまで脱毛が生じる汎発型など重度の円形脱毛症においては治療が必要。
ただし、これらの脱毛が数年続いていたとしても、T細胞の異常を引き起こす原因が解消されることによって再び発毛することもあります。
円形脱毛症が起きると焦り・困惑が生じてしまいがちですが、まずは冷静になり患部の経過を観察してみましょう。脱毛の状態が分かるように数日おきに患部の写真を撮り、見比べられるようにしておくことをおすすめします。
10円はげができやすい人の特徴とは?
円形脱毛症ができやすい人の特徴は下記に挙げる5つとなります。
- ストレスを抱えている人
- アトピーを持っている人
- 円形脱毛症の罹患者が家族にいる人
- 妊娠中の女性
- 栄養が不足している人
以下にてそれぞれの特徴を解説します。
ストレスを抱えている人
ストレスは円形脱毛症を引き起こす自己免疫疾患の大きな要因となります。なぜなら、ストレスには正常なT細胞の生成を促す胸腺を退縮させる働きがあるためです。
実際、神戸薬科大学の研究では、ストレスにより生じたコルチゾールホルモンが胸腺の退縮に深く関与していることを明示しています。
参考:生体ストレスが誘導する血管系リモデリング Vascular Remodeling Induced by Biological Stresses
長期的にストレスを抱えている人は慢性的な胸腺の退縮が生じている可能性があるため、円形脱毛症を引き起こしやすい状態といえるでしょう。
アトピーを持っている人
アトピー性皮膚炎や気管支炎、アレルギー性鼻炎などのアトピー素因を持っている場合、円形脱毛症を併発しやすいといわれています。
日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017 年版の記載では、国内における円形脱毛症患者のうち、約半数の割合で本人もしくは家族にアトピー素因があり、4割程度の割合で本人にアトピー素因がある例が示されています。参考:日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版
また、円形脱毛症患者の2割程度はアトピー性皮膚炎を合併していることが分かっていますが、円形脱毛症とアトピー素因との直接的な関係は解明されていないのが現状です。
円形脱毛症の罹患者が家族にいる人
先に述べた通り、円形脱毛症を遺伝として親から引き継ぐ場合もあります。
父方・母方の家系、特に両親のいずれかが円形脱毛症を患ったことがある場合、円形脱毛症になりやすい体質である可能性が高いといえるでしょう。
妊娠中の女性
妊娠中は円形脱毛症になりやすいといわれています。なぜなら、妊娠中に増えた女性ホルモンが過剰である場合、T細胞の生成に携わる胸腺の機能を低下させてしまうためです。
実際、神戸薬科大学の研究では、女性ホルモンであるエストラジオールを投与したマウスにおいて胸腺の退縮が見られました。参考:妊娠に伴う神経軸索伸長の制御機構
女性ホルモンは頭皮において発毛のサポートに働く一方、胸腺においては逆の働きをしてしまうことを考慮しておきましょう。
また、妊娠中はつわり・胎児への栄養移行から栄養の不足が生じたり、行動が制限されることによりストレスを感じたりすることが多くなります。
これらの状況に陥ることで更に円形脱毛症を引き起こしやすくなり得るのです。
栄養が不足している人
タンパク質やビタミン、ミネラルや脂質などの栄養素が不足している場合、胸腺の萎縮・免疫細胞の機能の低下が生じ、自己免疫疾患になりやすくなります。オレゴン州立大学の調べでは、各栄養素の失調によって免疫細胞の抗原に対する記憶応答が低下することが述べられています。
参考:Immunity In Depth | Linus Pauling Institute
なお、自己免疫疾患が原因とされる膠原病・甲状腺の疾患などは円形脱毛症を合併することがあります。
10円はげの治し方とは?
円形脱毛症を治すにはクリニックで治療を受けたり、生活習慣を改善したりする必要があります。ここで、一般的な円形脱毛症の治し方について紹介します。
クリニックで治療を受ける
クリニックで円形脱毛症の治療を受ける場合、下記に挙げる進行度合いによって治療方法が異なります。
- 初期の場合
- 症状が長引く場合
- 重度の場合
以下にて各段階に応じた治療の進め方を紹介します。
初期の場合
1円・5円玉サイズの小さな脱毛の場合、外用薬や内服薬、光線治療などを用いて治療を進めることが一般的です。具体的な薬剤・治療方法は下記となります。
外用薬 | ステロイド・塩化カルプロニウム |
内服薬 | グリチルリチン・セファランチン |
光線治療 | エキシマライト・ナローバンドUVB |
上記の治療を3ヶ月から半年程度にわたり継続することで、治癒を目指します。この期間に改善が見られない場合、治療方法を変更することが望ましいでしょう。
症状が長引く場合
ある程度脱毛が進行している場合、ステロイド局所注射・雪状炭酸圧抵療法などを用いて治療を進めます。前者は脱毛箇所にステロイドを注入することによって脱毛を抑制するもの。高い効果が期待できる反面、患部の痛みやへこみ、広範囲への適用が困難な点などのデメリットがあります。
また、後者はドライアイスを患部に押し当て冷やすことによって意図的に炎症を起こし毛母細胞を攻撃するT細胞の動きを抑制するもの。内服薬との併用によって高い効果が期待できますが、痛みを伴うデメリットがあります。
重度の場合
重度の円形脱毛症に対しては局所免疫療法が行われます。この方法は、スクアリック酸というプリンターの染料に使用されている成分を患部に塗布することによって、意図的に炎症を引き起こし脱毛を抑制するもの。
重度の脱毛にも効果を発揮する反面、公的健康保険の対象外となる点・使用する化学物質が医薬品でない点にデメリットがあります。
生活習慣を見直す
円形脱毛症を治すには、規則正しい生活やバランスの取れた栄養、ストレスの解消などが有効です。質の良い睡眠は自律神経を整え、ストレスに負けない体を維持してくれるもの。
またビタミンやミネラル、タンパク質や良質な脂質の効率的な摂取は胸腺の働きをサポートしてくれます。そしてこれらの心掛けに加え、普段からストレスを溜め込まないように生活することが円形脱毛症を治すポイントとなります。
よくある質問
最後に、円形脱毛症に悩む方からよく挙がる質問について紹介します。
Q.男性の円形脱毛症を早く治す方法はありますか?
円形脱毛症を早く治すポイントは、脱毛箇所が小さい初期のうちから症状に気づき、経過の観察や生活習慣の改善、クリニックへの相談などを行うこと。
初期の脱毛では、自らの免疫細胞から攻撃を受けることによって毛母細胞が活動を止めたとしても、毛包幹細胞はまだ正常に機能していることが多くあります。例えば1円はげ・5円はげの場合、クリニックから処方された塗り薬を塗布したり内服薬を服用したりすることによって数ヶ月での治癒が可能。
一方、広範囲にわたる脱毛の場合、治療に長い期間を要することがあります。特に、脱毛が帯状に広がる蛇行型や頭部全体の髪の毛が抜け落ちる全頭型、頭髪に加え眉毛・まつ毛にまで脱毛が生じる汎発型は治るまでに数年かかることもあるのです。
起きてしまった円形脱毛症にいちはやく気づき対処するには、普段から頭皮・髪の状態をチェックしておくと良いでしょう。
Q.円形脱毛症が治る前兆はありますか?
円形脱毛症が治るステップは下記となります。
- 脱毛箇所に産毛のような細く短い髪の毛が増えてくる
- 1の状態に加え、徐々に硬く太い毛が生えてくるようになる
- 2の状態が維持され、髪の毛が伸びてくることで脱毛箇所が覆われるようになる
上記の経過を繰り返すことによって、円形脱毛症は徐々に治っていきます。
Q.円形脱毛症はいつのストレスが起因してますか?
円形脱毛症は、約3ヶ月前のストレスが原因で生じると言われています。そもそも、髪の毛には下記のヘアサイクルがあります
- 毛母細胞が分裂を繰り返す成長期(2年から6年)
- 細胞が次第に停止し始める退行期(2週間から3週間)
- 毛髪の形成がストップしてから抜け落ちるまでの休止期(2ヶ月から3ヶ月)
円形脱毛症の経過では、ストレスによって成長期の髪の毛が一気に退行期を迎え、最終的に休止期となり完全に抜け落ちます。
つまり、円形脱毛症の発症とストレスを感じた時期には、退行期・休止期に要する3ヶ月程度の時間差が生じるのです。
Q.小さい円形脱毛症ができました。初期の治療法はどのようなものですか?
初期の円形脱毛症に行われる治療はステロイド・塩化カルプロニウムといった外用薬やセファランチン・グリチルリチンといった内服薬、光線治療などを用いたもの。
これらの治療を3ヶ月から半年程度続け、脱毛箇所の状態を観察します。経過に改善が見られない場合、治療方法を変えることが望ましいでしょう。
Q.円形脱毛症でしてはいけない行為はありますか?
円形脱毛症を治す上で、自己判断による対処は控えましょう。例えば、ストレスの抑制作用がある漢方や精神安定剤、ストレスの緩和を謳う精神療法などには脱毛を改善する明確な根拠がありません。
抜け毛が進行することによって焦りが生じた場合、自己判断で色々と試すことは控え、まずはクリニックに相談してみることをおすすめします。
Q.円形脱毛症と内臓の病気は関係がありますか?
円形脱毛症は、他の内臓疾患に合併して生じることがあります。例えば膠原病・甲状腺といった内臓の疾患は自己免疫疾患であるため、円形脱毛症を併発する恐れがあるのです。
円形脱毛症の治療を初めても改善の兆しが見られない場合、他の疾患が隠れていないかどうかを精査することをおすすめします。
Q.生まれつきの10円はげはどうすればいいですか?
生まれつきの10円はげには脂腺母斑と呼ばれるあざの一種から生じるものがあります。脂腺母斑は500人に1人の割合で発生し、そのほとんどが頭部・顔面に発症。頭部にできた場合には10円玉のような脱毛を引き起こします。
思春期以降になると患部に盛り上がり・かゆみが生じたりまれに悪性腫瘍となってしまったりすることがあるため、手術による切除が望ましいでしょう。
まとめ
今回は円形脱毛症ができるメカニズムや原因、治し方などについてお話しさせていただきました。改めて、本記事の重要ポイントを下記にまとめます。
- 円形脱毛症の原因として自己免疫疾患・遺伝が挙げられる
- 円形脱毛症は軽度であれば自然に治癒する可能性が大いにある
- 円形脱毛症は進行の度合いによって治療方法が異なる。
本記事を通して、円形脱毛症に悩む方々がそのメカニズムを理解し、適切な対処とともにふさふさの髪を目指すことができれば幸いです。